2015年7月1日
春の夢-6 荻野彰久 荻野鐵人
親とは何か子とは何か、この関係は何によって生じたことかの判例を調べるため入ろうとする図書室の扉の前に、さっきの首に二匹の蛇が絡み合っている裸の黒ん坊の少年が立ちはだかっている。
払い退けるようにして中へ入ると、彼が求めている判例集はどの書棚の上にも見当らず「進化論」とか「動物と人間の表情」とか「決定論」とか「頭がよくなる法」「数に強くなる法」「『東大』入試必勝法」のごとき受験に関する参考書のみが一杯どの書棚の上にも詰まっているのが薄暗い光の中に見える。
それをぼんやり眺めていると急に腹が減って来たような気持になった。
芳一は夢から目覚めた。勉強机の上に組み合せた両腕に斜めに顔をのせて眠っていたのである。