2015年7月2日
春の夢-7 荻野彰久 荻野鐵人
発表を見にいった校門を入る前から生臭い魚のニオイが変に鼻につく。ズボンのポケットから出したハンカチで鼻を押えながら発表が出ている筈の掲示板の処へ行ってみた。白い紙に黒い太い字で合格者が受験番号で張り出されている。念のため二度調べた自分の番号361に間違いはなかった。あっ!受かっている。芳一の胸は破れた雲のあいだの太陽のように一瞬照り出した。左手の平に握りしめた右の拳を叩きながら「ついに俺も『東大』にパスしたのだ。『東大』ならば親爺も家業の魚屋を継げとは云わないだろう。ああ、永年の労苦が今や報いられたのだ、慢性浪人ともオサラバか。それにしてもこれからは身体を大切にしなくちゃナ。さて誰よりも先に中気で寝ている親爺に一刻も早く報らせなくちゃナ。お袋や妹のやつ、どんな顔をして喜ぶだろう」