2015年7月6日
春の夢-9 荻野彰久 荻野鐵人
がN子は発表を見に来ていた父兄や受験生たちの人通りの多い校門の前という場所柄もわきまえず彼の胸に顔を埋めて泣き、いま前非(ぜんぴ)を悔いていると言った。
助けると思ってこの洋服を貰って戴きたいと言い「イッショウのお願い!」と手を合わせる。ついていくとN子の家は通りを隔てて筋向い側で予期したよりも大きい店だった。手を引っ張られるまま二階へ上るとN子は私室へ彼を案内し、素早く彼を裸にしながら言うのだった。
「アンタ、中学時代から何処かクサかったが今もどうもクサイじゃない?魚クサイわよ。ささ、早く脱いでしまって」と一枚一枚彼の着ているものを脱がせるかと思うと『東大』のレッキとした制服を着せ、爪先立ちに背伸びして無理に唇を押しつけ、立っている芳一の手の中に持っている帽子を被らせるとN子は彼からウシロへ2歩退ったところで右に左に頭を傾(かし)げながら眺め続けている。