2015年7月7日
春の夢-10 荻野彰久 荻野鐵人
「いいじゃない、とてもステキだわ、りっぱよ。芳一クンはやっぱり『東大』にふさわしいわア。」と目を輝かせて頬笑んでいた。
「真の『東大生』というのは芳一クンのような若ものよ。それが一般の『東大生』ときたらどうでしょう。点取り虫で利己主義で出世主義でエリート意識の権化でハバツ屋でさ。ネエ、女を女とも思わないでさ、要するに小物よ、ケチの塊だわ……」
N子の唇からもれる言葉がまだ言い終らない前から、鏡に映った光のように芳一の内部では、N子の一つ一つの表現に回答を与え
《貰える点を自ら捨てたら、入れもせず上へも登れないじゃないか!
赤ん坊は利己主義によって大人へと成長していくではないか!
出世主義と言うけれど裏を返せば生成主義だ。なぜ悪い!
エリート意識と悪く言うけど、高く誇りを持たないから腐敗するではないか、
小モノでケチだというけど他人に迷惑をかけないことに他ならないじゃないか。
思われるに値する女が出現したら思うさ!何が悪い!》
と言おうとしたが相手が女では仕方がない。黙って階段を下へ降りた。N子の夫とか云う痩せぎすの極めてブオトコが自分の