愛知県豊川市 医療法人共立荻野病院 内科・胃腸科・アレルギー科・リハビリテーション科

お金だってお前そうだよ。儲けようと焦ってごらん。たいていは怪我をするよ。人にはそれぞれ生れながらの定めというものがあるって光明寺の和尚さんが言っていたよ。さっきも言ったことだけど魚屋の伜は、お前、どこか魚屋さね。お前の先生もみな芳一君は実力はあるのだがいざ試験のときになると、たとえそれがウソの試験であってももうすぐ上ってしまい実力の十分の一も出せないらしいのだから不思議だって、首を傾げてお出でだったよ。お前はすぐあがるくせがあるよ、わたしもそう思うのだよ。いいじゃないか。なにも『東大』だけが学校じゃあるまいしさ。若し月謝が高くて私立がいやというのならお前、なんじゃないか十円のイワシだってお前７円にまけろというお客さまもいるのだから、先生にお頼みして、ちいと月謝をまけてもらっちゃあ。大学というところは魚屋と違ってお前、まけるということをしないところならお前、なんだよ、わたしはサクさん(筋向いの住人)に頼んでお前が入った大学の校長さんに頼んでもらってあげてもいいよ。あの人なんかそりゃ年こそ若いけど小学校しか出てない身分でもキリョウがいいばっかりに毎年二十人以上もの学生さんを大学へ入れてやって何百万という礼金をもらうそうだよオ。そりゃあ、お母さんだってお前の気持は分るよ。同じ年に一緒に高校を出たお友だちは、大学はとうの昔に卒業し結婚して子供まで早や何人もあると言うのに今さら私立大学でもないとそりゃお前も思うかも知れんよ。でもね、芳一、お前は『東大』一点ばりで12年だよ。少しは考えてくれたっていいじゃないか。『東大』と心中でもしなければいいと母さんは思っているのだよ、いずれにしても魚屋という身分だけはお忘れでないよ、芳一。「自分はどうせ直る病気じゃないから芳一を志望校へやってちょうだい。そうすれば自分は医者にかけてくれなくてもいい」と幸子はこう云って泣いているのだよ。(しばらく黙りこみ、突然)まアまア(と立ちあがり)「下にお昼の支度がしてあるからおあがりよ。母さんはエリ子の学校へ行って帰りに病院へ寄って幸子や父さんの薬を貰ってくるからね……じゃタノミましたよ」