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2015年7月24日

蜘蛛-(3) 荻野彰久 荻野鐵人

従って愚かで無知で無謀でしかないと人から嘲(あざけ)り嗤(わら)われることがあっても、いやそれは永遠に達することのできない景(けい)星(せい)なのだと好意に満ち溢れた親切な助言が彼の耳の奥まではっきり届いたとしても、結局それは死をもって代償させられるに違いないと、はっきり解らされたとしても一度心に決めた以上、どうにもならない自分で自分が抑え切れない、例えばくるりと目標をとり囲んでいる深い地下のロウゴクの石の一つ一つを掴まずにはおかない、といった一種の病的衝動が顔の表情に現われている。

どこから来、前には何を喰い、何を考え、どんな眠り方をしたのか。

どんなものに対して憎悪を抱きどんなものに対して愛を感じているのか。

養わなければならない年老いた父母や、躯を寄せ合って寝、喜びや悲しみを真底から分かち合える妻はいなかったか。

もしあったならば、この決定的別離に際して泣き悲しむ妻をどうやって追払うことができたか。

楽しみでもあり、苦悩の芽でもある小さい子らはいなかったか。

例えあったとしても後ろへは一切振り返りたくはないのだと言わんばかりに、でも静かな足どりで上へ向って登って行くのだった。



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