2015年7月29日
蜘蛛-(6) 荻野彰久 荻野鐵人
これから来る未来に対して希望が持てなくなり、絶望しているのだろうか。
それとも此処へ至るまでの走り続けに余りに熱中し過ぎて疲れたのだろうか。
さらに、それとも急死なのだろうか?
もしもそれならば意志を喪った彼の不幸な死骸は垂直なガラスの表から忽ち落ちて来るに違いなかった。
一体、彼はどうしたと言うのだろう?
テーブルの上の水槽が彼の目標ではなかったのだろうか?
走り続けて此処までくる道程の、どんなすばらしい風景でも直(ひた)向(むき)な彼の熱情を殺ぐことは不可能だっただろう。
それが場所としてはあまりいい処ではないにしても、ようやく水槽へ到達したいま、何故突然立止ったのか?
それとも見詰めながら走り続けの、此処に至るまでの距離の長さが余りに遠く且つ険しいため、素早く走るはおろか、徐々に脚を動かすことすらできないほど、彼は空腹に完全なる敗北を喫し、最早場所選定の自由すら奪われて、こんな見通しのあまりよく効かない薄暗い片隅の端に立ち止らねばならなくなったのだろうか?