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2015年7月31日

蜘蛛-(8) 荻野彰久 荻野鐵人

テーブルの上の水槽のなかには子供が夜、軒下(のきした)の露店で掬(すく)ってきた小さい金魚が入っているのだったが、走り続けた彼がやって来た目標と言うのは、どうやらこの金魚であるらしかった。

できれば大きい金魚をこの小さい蜘蛛は捕殺して喰いたかったのであろう。

が、たとえガラスが彼を金魚と、はっきり遮断していないとしても、見詰め続けなければならない、一切の目標を暫く忘れて何か美しい風景、例えば落日の光景とか、暢気そうに生きている森の草木や静かに流れている川の水と言った、日々の生活の労苦を暫し忘れさせてくれるような、辺りの散歩の時間の暇くらい長い目で見れば、運命を決定的に大きく変えて終うこともないだろうし、水槽の中を見るにしてももっと楽な、例えば何の不安も何の心配もなく、壁に掛った美しい画を寝転んだまま呑気に眺める姿勢だって可能であろう。



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