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2015年8月3日

蜘蛛-(9) 荻野彰久 荻野鐵人

第一そんなに長い時間、関節を折れ曲げたまま緊張に満ちた鯱(しゃちょこ)張(ば)った姿勢のまま見詰め続けていたのでは、すぐ疲れてしまうだろう。

例え空腹や疲れに長い時間の抵抗し得る、申し分のない素晴らしい健康に恵まれた身体であるにしても、恐らく彼は激しい渇きに襲われないだろうか。

窓のすぐ向う側には広い自由な世界、例えば今の時ならば美しい夜の星空が拡がっているばかりでなく、草叢の上にはしっとりと露が降りているのだ。

自分だけその気になりさえすれば、急ぎ席から離れ開かれた窓から出て行き、唇を濡らし、すぐまた戻って帰ったって、結果は大きく違うこともないだろう。

でも、見詰めながら走り続けてき、水槽の片隅に漸く辿り着いた彼に言わせると、眩いばかりの光の中に、すばらしい金魚がハッキリ見える、ある時は近くある時は遠く、彼にとって極めて悲劇的なことに、彼がすぐ襲いかかり易い、彼に極めて幸運な方向に今、或いは次の瞬間、いやどの瞬間にも、泳いで金魚がすぐ彼の傍までやって来る危険が存在するのだった。



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