2015年8月6日
蜘蛛-(12) 荻野彰久 荻野鐵人
静けさが支配している夜の中で、見詰め続けに没頭して、彼の傍の金魚を掴むこともなく、空しく過ぎていくどの瞬間も、どの時間もどの歳月も、緊張した仕事の後は、誰でも自然に突きたくなるほんの僅かの時間しか掛からない溜息一つ突く暇もなく、根を詰めた仕事の合間、合間には誰だって思わず知らず、伸び伸びと手足を伸ばしながらする欠伸(あくび)や背伸びの一つもすることもできず、金魚の来るのをいつも以前より強く肘を張ったままのジュンカンに悪い緊張に満ちた強ばった姿勢で待ち続けている。
皆が皆という訳ではないにしても多くの人が抱き続けることのできる、これといった期待も希望もなく、見詰め続けなければならない、これといった目標も持たずに、ぼんやりとその日その日を追われるままに暮らしているのだ。
金魚を見詰め続けている彼はしかし、どの瞬間もどの時間もどの歳月も金魚を待ち続け、期待を込めて緊張している。