2015年8月7日
蜘蛛-(13) 荻野彰久 荻野鐵人
夜中にも彼は金魚を待っている。
「今、金魚がやってくる!」
と彼は絶えず考え続け他の理由からではなく、ただ期待を込めた不安と、金魚が傍に来たらすぐさま掴もうとする欲求から絶えず緊張し、見詰め続けていると言わんばかりだった。
が彼にとって不幸なことは、すぐ眼の前にいつも常に金魚が見え続けているという現実であり、彼の内部に欲望が絶えず燃え続けているという事実であろう。
何らかの事情によって彼の眼の前から金魚が消えて無くなれば、彼はそこに居坐り留まるとしても、今ほど長く見詰め続けることもなかっただろう。
たとえ、彼が頑迷であるにしても他の更に確実な目標を捜しに戻っていったろう。
その意味の限りにおいては、彼の意志或いは判断力だけが、彼の運命を決定すると言い切れないまでも有り得ることだ。
でも時間とともにますます疲れ果てて行くにしても、自身失望ということを知らない彼は歳月とともにますます緊張の度を強めながら見詰め続けに没頭しているのだった。