2015年8月11日
蜘蛛-(15) 荻野彰久 荻野鐵人
夏だ、まだ夏だと金魚を見詰め続けの作業に彼が没頭している間にも、夏は秋に入りもう冬になっているが如く、自由を奪われた一種の拘束状態の、強く見開いた眼のまま、緊張に満ちた強(こわ)張(ば)った姿勢のまま、もう随分長い時間が流れ去っているのだったが、次々と頭の中に浮ぶ現在気にかかっていることや、将来の見込みや、喜びや悲しみもあったに違いない後ろから押し寄せてくる思い出が、例えあったにしても又やってき、そしてまた空しく通り過ぎていく金魚を見詰め続けの仕事のために、彼は一切を退け押し退け、只々、金魚のみを見詰めているのだという印象は消し去ることができなかった。