2015年8月17日
蜘蛛-(17) 荻野彰久 荻野鐵人
金魚を掴むこともなく、さらに極めて速やかに一刻一刻の空しい時間が過ぎていく――たとえ彼が疲れていないにしても恐らく彼は気付かないだろう――と、これまでの分は只単なる遊びや慰さみでしかなく、これからがいよいよ本式の金魚見詰めの作業に着手する決意なのだと言わんばかりに、はっきり顔を金魚の方へ向け、疲れを癒すほんの僅かの時間も
「眠るまい! 眠るまい!」
と自らを鞭打ち励まし、
「今度こそ!今度こそ!」
と言うように見詰め続けていた。
が、彼が眠ろうとしないのは、金魚にあてられている光の眩いせいではないだろう。
仲間たちによって張り巡らされた網に掛ったすばらしく大きい獲物が、すぐ彼の目の前を運ばれていくのを見るためでもないだろう。
ただ単にガラスの向う側の金魚のみを見詰めるためだけであるに違いなかった。