2015年8月18日
蜘蛛-(18) 荻野彰久 荻野鐵人
栄養も与えられず休息も欲せず眠ろうともしない、坐り続けの見詰め続けの、絶えず緊張に満ちた彼のこのような生活は、苦しみの連続でほんの僅かの喜びすら全く見られなかった、と言う訳ではない。
きわめて活気に満ちた輝かしい時も見られるのであった。
恐らく死にそうに疲れているのであろう。
死んだように動かなくなった彼のすぐ目の前に極めて静かにゆっくり、恰も彼を試すかのように金魚が泳いできそうに見えたらしい時であった。
俄に彼は活気を見せ始めた。
たちまち飛び起きすぐ目を覚ますために左右に烈しく頭をふり、硬く関節を折りまげた緊張に満ちた姿勢をとり、じっとガラスの奥を見詰め始めるのだった。
そんな時の彼の眼の中には長い間の生活の苦しみはもう今日でお仕舞いだ!
さ、さ、明日からは心愉(たの)しい明るい生活の日々ばかり続くぞ!
と言わんばかりに光り輝いて見えるのだった。