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2015年9月24日

「精神と芸術」座談会 (19)


―健全なる精神と健全なる身体―
出席者 亀井勝一郎・島崎敏樹・丸山薫・斎藤玉男・荻野彰久
(東京 荻野邸にて)

島崎 仏様は本堂の真ん中にあって、上の方にありますね。そこで、ほとんど、薄暗い所にあって、お顔なんか、ほとんど見えないわけでしょ。そこでひざまずいて拝む訳なんです。それが本当の仏様の見方ですか?
亀井 まあ、そうでしょ。
島崎 そうすると、まあ美術鑑賞的な見方がなくなっちゃうわけです。
亀井 美術鑑賞という事はおそらく明治以後でしょ。つまり、実際に仏像を作った人の中には、美意識はあったでしょ。その美意識って云うのは、同時に彼らにとっては、信仰の行為であったでしょ。信仰と美意識の矛盾というものは、そこをぼくは考えたいのですが、記録も何もないんですからね。
丸山 やっぱり、それにすがって救われたいという気持が美になって行ったんですか、仏様の顔になって行ったんですか?
亀井 ぼくはそう思うんです。本当にやっぱり信仰の行為だと思うんですしかし、芸術家ですからね。そりゃ信仰だけでいかないですよ。必ず、精密に、美的にといったような傾向がある。
島崎 そこに、私もひっかかっちゃって本当に困るのですよ。いつも困るんです。つまり、美意識と云うものと信仰心と云うものは相反するものなのですよ。それをどうやって、仏師が自分の中で統一しなければならないか?
亀井 それを発見したいと思って考えたんですがね。文献の上では無いですね。
仏師の自分の記録というのは、若干の伝説はあります。日本霊異記なんかを読みますとね、ある坊さんがきれいな吉祥天ですから惚れるのです。信じているんだけど惚れるのですね。夜中に交るんです。夢で、朝起きて見るとその裾が濡れているのです。その結論が面白いのです。「それ程、霊験あらたかである」(笑)
島崎 結論は現世的になるのですね。
亀井 結論はけしからんと思って読んだ。これほど霊験あらたかであるとはなんてね(笑)まあ、しかし、ある意味に於ては、非常に日本的な事ですね。矛盾という点で。



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