2015年10月20日
「精神と芸術」座談会 (36)
―健全なる精神と健全なる身体―
出席者 亀井勝一郎・島崎敏樹・丸山薫・斎藤玉男・荻野彰久
(東京 荻野邸にて)
荻野 話がそれて恐縮ですが、われわれ、別なイミで現代文明が複雑化すると、精神異常者がたくさんでてくる。ですから、私たちのような内科医とは違って、精神科医はやり甲斐があり、おもしろい。外科はそうでもないでしょうけど、内科はどうも、これは自分が助けたという自信がもてる病気は少ないですね……。たいていは自然治療をまつようなものですからね。
島崎 (笑いながら)そういうこともいえましようかね。
荻野 それで、診断がわかっていても、治療がどうにもならないのがいくらでもありますしね。
うちの子供なんか精神科も面白いだろうなと云っているんですよ。
島崎 あ、そうですか。近頃、そう云う方がふえてきたのですね。
わたしの大学に面白いのがきたんですよ。面接試験をやる。学科は全部合格点なんですから、身体が悪くなきゃ入れるんです。
だいぶ年をとった。君、浪人かいというと、いいえ、この春、教育大学を卒業しましたと云うんですよ。文学士さんです。じつに発心したものですねえと云うと、わたしは精神医学をやるためにきたんです、というんですよ。先方もぼくを知らないんですよ。初対面ですから、いろいろ、話しているうちに、わたしが精神科の関係だということがわかって、先生の所で勉強する為に受けにきたようなものですね。なんていいましてね。こっちが、あわてちゃいましてね。
出るまでに七年間です。大学は6年インターンが1年、それで、彼が世の中に出るのは七年先になるわけですね。33か、ずいぶんいい歳ですね。それだけもてばいいと思っているんですが。まだ予科ですが……。
斎藤 ああ、そう。
島崎 ずいぶん変りましたね。