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2015年10月27日

無極庵記(2)――詩的遺書 成瀬無極

ところで所謂「白鳥の歌」が文字を通してではなく、直接肉声で聞こえてくるとき、当然その印象は一層鮮明に深刻になる。私はこうした意味での生きた遺言を最近二つまで聴いた。そして、それらが、いつでも繰返して聴かれることを幸福に思っている。その一つはトオマス・マンが死の前年七十九歳で吹き込んだ「詐欺師クルルの告白」の一章であり、次ぎは十年前にカリフォルニアで病没したフランツ・ウェルフェルの詩の朗読である。マンのレコードは日本でも幾曲か再生されたが、ウィ一ルフェルのはつい数日前に初めて聴取した。この録音は全く奇蹟的に保存されたのだという。マンの場合は死期の近いことを予感しての吹き込みだったろうが、ウェルフェルのは時も所も明らかでない。然し、迫害と亡命との受難期が長く続いたのだから、絶えず生命の危険に曝されてゐたに違ひない。しかも、心臓の痼疾があって、つひにその発作の為に五十五歳で斃れたのだとすれば、これもまた詩的遺言と称せられるべきであらう。マンの声は北ドイツ的に重く強く澁く響き、ウェルフェルのそれは墺囲的に軽く滑らかに情熱を籠めて流れてゆく。共に、その声を通して、その面影が眼の前に浮かんで来るやうだ。ウェルフェルの音盤には初期の詩集「世界の友」からの短篇と死の直前に編まれた自選詩集に収められた三篇とが吹き込まれてゐる。その中で最も有名なのは長詩「微笑呼吸歩行」である――
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