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2015年11月4日

akira's view 入山映ブログ SAARC

 10億人を超える人々に民主主義を定着させたのは、人類史上インドが始めてだ。これだけの人口を抱えているのだから当然のこととして国内の言語も、宗教も、民族も多岐に亘る。のみならず、悪名高いカースト制度も依然残存しているし、貧富格差も言語に絶する。そうした諸々の問題を抱えつつも、普通選挙制で選挙民が一票を投じ、それによって自らの指導者を選ぶ、という仕組みが機能しているのは驚嘆に値すると言う他はない。同じく10億を超える人口を擁するお隣の中国の有様と対比すると、その感は一層深い。

 突然こんなことを書き出したのは、岐阜女子大南アジア研究所が定期的に行なっている時局講演会で南アジア地域協力連合(SAARC)加盟諸国(インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、ネパール、ブータン、モルディブ、アフガニスタン)の現況についてのフリーフィングを聞く機会があったからだ。フリーフィングそれ自体は外務省のお役人がなさったから、面白かったりおかしかったりする訳もない。にも関わらず改めてこの地域に持つ興味を再確認した理由は他でもない、SAARCの持つ戦略的重要性であり、その割には日本でこの地域について耳にすることが少ない、という地政学的に見た大きなギャップによる。

 戦略的重要性というのは、近未来における中国の世界規模での排他的優位、あるいは一人勝ちの可能性を重視し、それが世界にとって、また中国にとっても望ましくない事態だとする認識に立つ。その上で、(危惧される)中国の覇権主義をチェックする可能性がどこにあるか、と考える。中国をしのぐ人口を持つこの地域は、様々の制約要因から疑問視する人は多いものの、一つの可能性であると見る訳だ。その際の中核になるのがインドであるのは言うまでもない。

 この連合の実質的な意義が疑問視されるのは、SAARC加盟諸国相互間の経済関係はさして深いものではない(域内貿易は5%弱。ちなみにASEANは40%を超える。)ことにもよる。つまりこの組織の存在は経済的必然性に欠ける。さらにお互いに国境問題を抱えていたり、紛争当事者あるいは関与者であったりしている国が多い。それでも1985年以来、極めて緩い形の連合体を作っているという点で、実利先行型の地域枠組みではなく、まして紛争調停を意図している訳でもない(紛争それ自体は会議で取り上げないことになっている。さらに全会一致でなければ合意にはいたらない。)短所は長所になりうる、という見地からは、この不思議な存在に異なった可能性があると見ることも可能だろう。流動的で形をなしていないこの組織に日本は既にオブザーバーとして関与している。この連合体に戦略的意味を付与させるうえで願ってもない地位にあると言ってよいだろう。アフリカと並んでSAARCが日本外交の焦点になる日が一日も早いことを願いたい。

2010年 02月 28日



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