2015年11月6日
獅子は子を(1) 板倉靹音
「熊の楽園」というのであったか、大分まえのことで題は忘れたか、能の生態をとった映画を見た。そのなかで特に面白く思った個所がある。長いあいだ子熊たちを連れ歩いていろいろ教育してきた母熊が或る日、子熊を木に登らせる。自分は下にいて、おりてくる子をその都度、木の上へ追いかえす。従順な子熊たちはとうとう諦めて木の上で眠ってしまう。それを見すまして母熊は姿を消すのである。広い自然のなかでこの親子は再びめぐりあうことがあるかどうか。めぐり会ったとしても、親子であることを知っているかどうか。
やはり親が子をすてるのだなと僕は思った。そして思いついたのは、獅子は子を千仭の谷に突き落して試すという話である。これは単なる寓話とのみ考えていたのだが、どうもそれだけのものでもなさそうだという気がしてきた。