2015年11月19日
アデレ-ド碇泊(4) 丸山 薫
洋上の行衛不明事件は、旧日本海軍の「うねび」や練習船の月島丸や、それと趣は少し変わるが、推理小説のモデルにもなったイギリス帆船のマリー・セレスト号など、どれも僕の好奇心を唆る話ばかりだ。
八月下旬、甲板も通路も麦粒だらけになったY丸は、僕の多少の杞惧をのせたまま、ラスト・ポートであるシドニーをさして、日本への帰航の途に就いた。その晩、非番の船員たちは、永い投錨の屈托から解き放された歓びと勇躍で、あちこちのケビンに集ってはしたたかに酒をあおって騒いだ。