2015年12月2日
打明けばなし(対談)(1) 井村恒郎
(問い手 斎藤玉男)
問 「戦後」は済んだのだそうですが、済み工合も色々ありましょうネ。医学界では例の放射能なぞ言う厄介なものもありますしネ。ところで話を区切って精神医学と言った面での手近い見通しはどんなもんでしょう、忌揮のないところ・・・・
大先輩にあたる先生を前にして、申し上げあげにくいのですが、私の感じを卒直に言わせて頂くと、現在は日本の精神医学にとって大きな危機だと思います。戦後のアメリカ精神医学の影響はこれといった実質的なものを我国に残さぬうちに峠を越した感じですし、ドイツの精神医学も、私たちの先輩や同僚がこんど帰朝して持ってきた土産にも、私たちを強く惹くものは無いようです。これからソ連圏からの輸入が始まるかも知れませんが、何よりも大事なことは、日本の精神医学をつくること、せめてその基盤をつくることだと思います。でないとどこの国の学問を取りいれても、徒らに食傷するだけで少しも血肉にならないのではないかと心配します。