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2015年12月3日

打明けばなし(対談)(2) 井村恒郎

(問い手 斎藤玉男)


問 先ずそうした所でしょうネ。こちらの専門も役者の粒が揃って参って心強い次第と思います。精神医学の橋渡しにはあなたを先頭に大橋大熊なぞ活きのいい面々が控えて居り、脳波やら皮質下手術やら……そこでここ20年位専門は大体どの方向に伸び易いのでしょうか。

仰せの通り、若い人たちに有能な人がたくさん出て来たのは心強いかぎりです。私らの時代は、クラスで精神科志望は私一人でしたし、私の前後にも一人か二人しかいませんが、いまは毎年十人くらいいるとの話です。精神科も盛になったものですね。こう沢山いるとその中には学才豊かな人も多いわけで、しかも互いに励ましあい競いあって、ますます才能を伸ばしているようです。
精神医学と大脳神経学の橋渡しの話ですが、私など先頭どころか、置いてきぼりの状態です。私らの頃の考え方は、どうも哲学や心理学の方に傾きやすかったのですが、それは最早アップ・トウデイトではないのです。自然科学の方法がどんどん適用されています。脳波も、いまでは一つ一つの細胞の脳波を調べるといったふうに、自然科学的方法の進歩には限りがないようです。ヘスという学者は分裂病の皮質下の脳波に特色があるといっていますが、特殊な装置で皮質下深くまで導子を入れて置いてあるようです。楢林君のやったパルキソソニスムスの淡蒼球手術など、巧妙な装置をつくるのに非常な努力を払ったようです。こういう披術は、こんごも進歩してゆくでしよう。これに反して、精神作用のとらえ方の技術は、いくつかのテストがありますが、まだまだ幼稚なもので旧態依然の感じです。精神機能のとらえ方と、脳の機能の研究法とのあいだには、進歩の速度が喰い違っていて、どうもアンバランスがあり、今後このアンバランスはいよいよひどくなるのではないかと、私のような旧人は気にしている次第です。


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