2015年12月15日
風・木の実・女(6)――海での思い出―― 丸山薫
ヴアレンタイン海峡を通って、明日あたりは待望の南支那の港に錨をおろせようという晩に、星空を仰いでいたら、不図、大気の中に漂う果物の匂いを嗅いだような気がした。その数年前に台湾に旅行したときに経験した、あの木瓜(もつか)の強烈な香りだった。南方の果実の芳香はよく船乗りに、島の近づいた事を暗示すると聞いていたが、それとて極度に鋭敏化した嗅覚の幻影だったかもしれない。
残念ながら、女の匂いは漂ってこなかった。(詩人)
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2015年12月15日
ヴアレンタイン海峡を通って、明日あたりは待望の南支那の港に錨をおろせようという晩に、星空を仰いでいたら、不図、大気の中に漂う果物の匂いを嗅いだような気がした。その数年前に台湾に旅行したときに経験した、あの木瓜(もつか)の強烈な香りだった。南方の果実の芳香はよく船乗りに、島の近づいた事を暗示すると聞いていたが、それとて極度に鋭敏化した嗅覚の幻影だったかもしれない。
残念ながら、女の匂いは漂ってこなかった。(詩人)