2015年12月21日
大正の留学日記(3) 坪田英熙
卯三郎は、一方で、同じホテルに泊まった滋野男爵のフランス人の夫人に会い、「佛国婦人は一般に丈低く日本人と大して異なるなし。美しとて肉躰美はいざ知らず顔は決して美ならず、只服装等の巧みなるのみ」と観察を怠らないところは流石に科学者だ。
ロンドンに落ち着いた卯三郎は、留学の主たる目的であるロンドン大学キングスカレッジのリチャードソン教授と面会、留学の目的、研究の方向等を述べて同教授の研究室に無事受け入れられる。
教授から日本の研究環境を尋ねられ、研究設備は改良しつあるが東洋に孤立して特殊な研究材料を一々欧州から輸入せざるを得ないのは困ると答えたところ、教授は「それは日本に取りて更に研究上誠に損なり、其損にもかかはらずオーストラリア、ケープタウン、インド等に比して多くの結果を出すは誠に感心なり」。褒められたのは嬉しいが世界の中心たる大英帝国の学者らしい「上から目線」でもある。 (続く)