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2015年12月28日

中国所見(4) 北川冬彦

中国の医者

通訳が愛群ホテルの私の部屋をノックして、医者が注射にきた、という。巾びろ縁の帽子をかぶった厳めしい姿の二人の中国人がはいってきた。一人は大きな風呂敷包みを抱えている。もう一人がその風呂敷包みを開け、白い布をとり出してテーブルにかけ、セトビキの平たい四角な皿を置き、二人とも白衣を着込んだ。まるで手術でも始まりそうな物々しい気配である。私はいささかおそれをなした。それから、その皿のなかに、注射器がはいる入れものの付いたアルコールランプ仕かけの器具を置き、その入れものに水と注射器を入れ、ランプに火をつけた。三十分以上もぐらぐらにた。実に悠々として叮嚀だ。やがて、腕にヨーチンをぬり、注射したが、意外に上手だった。私は、仕度をするのを傍で見ていた人が注射するのかと思ったら、仕度をした人が注射した。その人の方が上役なので
ある。日本だったら助手が仕度をするのだろうが、上役がした。後片づけもその人がした。助手に当るのは、風呂敷包を持つのと、私の腕を押えるだけだった。そして、助手らしい態度は一向ない。むしろ、その上役よりも豪然と構えていて、助手の方が偉い方の人なのだとはじめ想ったほどである。これには異様な感を受けた。私は日本でもやった注射のアトがうんで、持参したクロマイを飲み、帰る頃やっと癒つたが、ロクに消毒もしないらしかったのに較べて、おそろしく誠実、慎重なのに感心した。二人が帰った後、灰皿に捨てたアンプルを見ると「霍乱」という字が見られた。五十日の旅行中、団員が一寸腹が痛いというとすぐ医者がきた。北京から五、六里離れている万里長城のはじまる八達嶺見物に、自動車五台ほど連ねて出掛けたが、そのとき、女医が一人薬箱を持ってついてくる用心深さである。誰も御厄介にならなかったが、帰途に一台がトラックに衝突して、女通訳が額をしたたか打ち、この医者が見事役に立った。この用意周到、叮嚀、誠実なことは、新しい中国のすべてに通じるところで、敗戦後の日本では失われているだけに、私のこころをうった。(詩人)



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