2015年12月28日
大正の留学日記(7) 坪田英熙
英仏独の三国を見た卯三郎は文明論評に及ぶ。「歐洲文明は爛熟せり。百年後に於ては如何相なるべきか。獨人の強かりそうで強くなき処、裸体美人の像及画の英国に比して多き処、公園の不品行の英国に多きに比していささか諒解に苦しむと雖も、之は英国の不都合は下流にして独逸のそれは上流にあり。英国は下流悪しく上流宜しく、独逸は上不都合にして下流の健全なる」と分析。フランスについては気楽で住み心地がいいと云っておきながら「美術盛んにして上下共に品行の悪しき」とこき下ろす。
「西歐文明は極度に物質主義に傾けり。學ぶべきは此物質文明にあれ共無形の文明、道徳上の文明に於ては過去に於る日本の文明は決して捨つるべからず」とも云う。
10月中旬ベルリンを発ってパリに移り、翌大正12年2月中旬まで滞在の後ロンドンに戻った。3月中旬まで滞在。
その間の約5か月、各国の大学を訪ね著名な学者に会い、書籍を買い、読書するという生活だが、滞在初期のような社会観察は少なくなり、歐洲の生活に慣れて来た様子が窺われる。在留邦人とはよく往来し、よく酒を飲み、知己を増やしているが、学者以外の英独佛人の間に友人を得たという記述は少ない。 (続く)