2016年1月14日
akira's view 入山映ブログ 東海紀行
所要にかこつけて、かねて訪ねてみたかった場所に幾つか行く機会があった。
一つは三岸節子の美術館で愛知県の一宮市(この間までは尾西市といったが、合併で一宮になった)にある。彼女の生家を保存復元した施設で、とても素晴らしい出来映えに仕上がっている。ありきたりの街並の中に忽然と昔の織物工場、煉瓦の建物が出現する。土蔵までがそのままに再現されているから、一画だけがまさに異次元のたたずまいだ。この街を訪れるために通る国道22号線沿線の薄っぺらな風景。ファストフードのレストランと自動車関連のウェアハウス、それに怪しげなビデオスタジオまでが並ぶ安手な建築の集合。それに街に入ってからも、このごろどの地方都市でもお目にかかる、何の特色もない殺伐とした建築空間。われわれはこの一世紀何を得るために営々と蓄積を重ねてきたのだろう、と感じさせる対比である。
全くの余談だが、カーナビが旧くて美術館所在地が「尾西市」のままであったのを失念したから、一宮市中心部まではたどり着いたものの、道に迷ってしまった。このごろ何でもカーナビ頼みが裏目に出た格好である。飛び込んだ駅前「クラシックホテル」のフロントの親切だったこと。インターネットからHPまでプリントアウトしてくれた。読者の皆さんの中で一宮に一泊する機会がある方は是非クラシックホテルに泊まってください。美術館で触れることの出来た職員の方の心温まる接遇には、筆者の持っていた「地方公務員」のステレオタイプを一変させるものがあった。(この美術館は市営である。文化政策に敬意を表する。)一宮市の人気(ジンキ、と発音して頂けると嬉しい)はなお素晴らしいものがあるようだ。
もうひとつは沼津近くの長泉町にある「クレマチスの丘」。これは文字通り無数の種類のクレマチスを中心にした屋外彫刻美術館と、それを取り巻く幾つかの美術館、それにレストラン等の関連施設を含む総合施設だ。趣味の良さ、とはこういうことをいうのだろうというのが第一感。隅々にまで感じる美しさへの気配りが嬉しい。駿河銀行の関連文化産業として株式会社形態をとっている、という。こうした施設が、当然ともいえる公益法人形態をとらないで敢えて営利会社でいる、というのは幾つかの複合した理由によるのだと思うが、ひとつにはこのブログでも再三にわたって触れた、役所の過干渉だと想像する。同様のことは日本の伝統芸術の筆頭である歌舞伎が、株式会社歌舞伎座に依存しているという現象にも見ることが出来る。民間のしなやかな立ち居振る舞いを尊重し、文化事業に対する税制面での配慮だけは忘れない、そんな日本でなければ、「新しい公共」もあったものではない、と思うことだった。
2010年 06月 17日