2016年2月3日
北の言葉(3) 更科源蔵
北海道にシバレルといふ言葉がある。語源はよくわからないが、寒いとかつめたいとかいふ言葉ではとても表現できない、寒波襲来などといふ肌に痛みを感ずる寒さをいふのである。そんな朝はうっかり金物にさわると、ピタリと金物に凍りつき、無理にはがすと白く凍った皮肢がむしりとられる。髭に氷柱がさがり呼気が睫に凍りついて、目搏きするとピタリと凍りついて目があかなくなってしまふ。酒も醤油も凍り白絞油など白い塊になってしまふ。こんな朝に酒を買ひに行くと生酒のやうなのが買へるが、しばらく外を歩いてゐると頬の筋肉が動かなくなって、話をしようとしても舌がもつれてうまく声がでない、身体の動作も不活溌になって自由が効かない、こんなのがシバレる寒さなのである。要するに身体が縛られたやうに自曲のきかなくなる状態になる寒さをいふのである。だからシバレルは縛られるが語源かどうか知らないが、そんな状態になる寒さであることはたしかである。