2016年2月4日
北の言葉(4) 更科源蔵
私達北方で育った人間は、どうも南方育ちの人よりも発声が太くてにごってきたないのが多い。それは他にも理由があるかもしれないが、シバレタ空気のために頬も舌も効がなくなって繊細な発音ができないで、無理に下腹に力を入れて発声するからではないかと、南方育ちの人のきれいな明るい発音をうらやましく思ふことがある。然し北方民族であるアイヌ民族の言葉は清らかに澄んでゐて美しいのはどういふわけだらう、アイヌ語は北方の峻烈な空気の中で、自由に発声できるように組合されてゐるからだらうか、それとも寒さにおじない体質を持ってゐるからだらうか、兎に角吾々日本人の言葉は寒い地方でひどくきたなく濁ることは事実のようだ。 (アイヌ研究家)