2016年2月9日
孤 独(2) 丸山 薫
事実、それほどに海の上では、私はいつも孤独であった。孤独の原因の一つは、住みなれた陸地をはなれて、水と空だけから成る世界のただ中にいるという、漠然とした寂しさから来ていた。そしてもう一つの原因は、この自分が、船という、船乗りという特殊な社会の日常の中に、不意に横合から割りこんでくらしている陸者(おかもの)だという、そのような自意識に由来していた。先(さき)の方の寂しさは、船で海外に旅行する者なら、誰もが抱く気持だろう。ただ後の孤独感については、私の船旅にだけ附きまとって離れなかった、あれは特別の気持ちではなかったろうか? なぜなら――
Y丸は貨物船であり、K丸は練習船であり、二艘ともが乗客をはこぶ船ではなかった。いわば私は好意による計らいで乗せてもらった便乗者だったからである。