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2016年2月18日

akira's view 入山映ブログ 見立て

 「内館牧子さんに聞く」(7月24日日経夕刊5面)をとても面白く読んだ。あるものをまったく別のものになぞらえる、「見立て」という行為を彼女は日本のお家芸であるという。しかし便利なだけの見立ては見立てとは言わないし、逆にやりすぎてもまた気持ちが荒れるのだそうだ。だから、レジ袋をガムテープではっつけてゴミ袋にするのは見立てではない。単に貧乏臭いだけだ。ビールグラスを花瓶にする見立てとの違いを考えてご覧なさい、とおっしゃる。相撲の土俵の四隅にある房は、柱に見立てられた房であり、城壁と同じに強固だという。その辺りの事が解らないと、力士の力水も単なる水道の水になる。これはもう知性の問題だと彼女は断言する。

 自然体が良い、というのも確かに一つの考え方だろうが、日本には感情を抑制するという自然体ではない精神文化がある。それが廃れているのはきちんと教えなかったからだ、という。踏襲するかどうかはお前の自由だが、覚えてはおけよ、とだけは徹底して教えなくてはならない。小学校から英語を教えるよりもずっと大事な事だという。これには全く同感で、こんな人が教育委員をなさっているのなら東京都の教育も大丈夫だろうと思われた事だった。

 ただ、花火っていうのは情緒あることばだが、「火仕事」のファイアーワークはなんてつまらない言葉でしょう、というのには英語圏の人から異論があるかもしれない。イギリスロマン派の詩人に造詣の深い読者がいらっしゃれば、彼(女)らがうたったfireworkの中に、もしかしたら「見立て」仕立てのものを発見してくださるかもしれない。外国の花火は、大味なものが多いのは事実で、さればこそこの頃、世界のどこの花火大会でも日本の花火師がもてもてだという。これは「火仕事」の部類に属するのか、はたまた纏綿たる情緒が売り物なのか、難しいところではあります。

 日本文化礼賛というのは、ともするとホントのところは自分たちにしか解らないよ、というコミュニケーション拒否みたいな態度につながり易い。でもそれを言い出したら世界中収拾がつかなくなる事も事実だろう。最近でこそ日本の気候の亜熱帯化に伴ってはやらなくなったが、簾に釣り忍、浴衣にうちわで打ち水をした庭に向かって冷酒をチビリ、なんていうのは、砂漠のイスラム文化圏の人にとっては冗談じゃないよ、ということにしかなるまい。どちらが高尚だ、精神性豊かだ、という比較の問題ではなさそうだ。でも逆に、グローバルスタンダードと言えば聞こえは良いが、受動的な企画均一のブンカに何の疑問もなく全身を浸しているだけ、というのも文化の名には値しないだろう。日本の良さ、美しさが急速に消滅しつつあるのは、好ましい事だと言ってはばからない人々もいる。そうじゃないでしょう、といいたい筆者のような人間にとっては、だから内牧さんのような人に出逢うと嬉しくなるのです。

2010年 07月 26日



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