2016年2月22日
akira's view 入山映ブログ トリノ歌劇場(2)
トリノ歌劇場二つ目の演目はボエーム。フリットーリのミミと、あの三人がいなくなってからおそらく一番人気のテノール、アルバレスがロドルフォを歌う、というからもちろん期待の舞台である。ところが第1幕、フリットーリの高音に今ひとつ透明感がない。これは期待過剰だったかな、折角テノールが頑張っているのに、なんて思っていたら、どうしてどうして、3幕の例の雪の場面は、今まで観たうちでおそらく最高の舞台だったように思う。演出も、全くけれん味のない正統派でこれも安住感がある。(1幕でロウソクが消えたのは風ではなくてミミが自分で消した、という演出だが、全く違和感なし。)変わったところと言えば、屋根裏部屋の上手に屋外の建物への入り口が設定されていて、いつもの舞台では舞台奥から聞こえてくる「早く来いよ」「なにしてるんだ」が、ナマで見える、ということだろうか。これもごく自然に受け入れる事が出来た。
先のトリノ(7.25)で、デッセイがムゼッタを歌う、と書いたのは誤り。ムゼッタは森麻季さんでした。これが出色。フリットーリを向こうに回して一歩も引かないから天晴れ、というか、もうそんな事に感心しているレベルではなくなったのかもしれない。始めて彼女を聴いたのはもう十年以上前になる。男子三日見ざれば、というのは何も男子に限った事ではないようだ。マルチェロとの掛け合いの楽しい事といったら。思えば、イタリアの聞いた事もない歌劇場で一度歌った事があるかどうか、という歌手が帰国してちやほやされ、あげくの果てに文部科学省関連組織の要職に就く、という時代から、まだそんなに経っている訳ではない。国際レベルの日本人歌手が輩出するのを目の当たりにするのも大きな楽しみだ。大相撲や囲碁の世界では日本人はさっぱりだからね。
いささか脱線したが。ボヘミアン三人組がそれぞれに良い味を出している。マルチェロのビビアーニ、ショナールのカローリス、そしてあの「外套よさらば」のウリビエーリ。のみならず、フリットーリとアルバレスについてもいえることだが、この三人の声の質が調和していて実に耳に優しい。トリノの公演でここまで見事なアンサンブルが聴けるとは思っていなかった。大きな得をした気分である。
フリットーリはミミが久しぶりなのだそうだ。やはり、何でも来いでどんどん役をこなす、という段階は卒業しているのでしょうね。こんなにすてきな舞台を見せられると、秋口にかけてやれゲルギエフとグレギーナのトゥーランドットだ、来年にはMETがネトレプコのボエームだ、なんていうのを全部聴きたくなる。さいわいドクターストップで禁酒をしているから、それで浮いた分を全部オペラにまわそうか。
2010年 07月 29日