2016年3月14日
akira's view 入山映ブログ ミスター円
往年のミスター円、榊原英資氏の講演を聴く機会があった。氏はこのところ日本ではほぼ定説になりかかっている「小さな政府」論に真っ向から異論を唱え、高負担・高福祉路線ともいうべき政策提言を多く発表していることで知られている。今回の講演のタイトルも「フレンチ・パラドックス」というなかなか刺激的なもので、心はやはり国民負担率を上げて、福祉の諸問題を解決しよう、という話なのだが、そこは榊原氏のこと故、いささかの味付けとスパイスが利いている。
まず氏は、フランスでは公教育は全て大学まで無料。出産も育児も私的負担はゼロだ、という。この施策あって始めて出生率が2を超えるという結果をもたらすことが出来た。とにかく人口の減る国に国力も成長もあり得ない訳で、その意味ではフランスはまさに日本が見習うべき国だとする。日本では子供を一人持つということは、大学を出すまでに1千5百万から2千万円の個人負担を意味する。これで少子化を防げと言っても絵に描いた餅。それだけではない。フランスでは地方の活性化も極めてうまく行っていて、地方の小都市に固有の文化が根付き、シャッター商店街の様な現象はみられない。それも、大店法の適用を厳格にして、大型スーパーなどが地方に展開できないようにして地方経済を守っているのだという。規制撤廃を金科玉条にするのではこんなことは起こりえない。
小泉・竹中改革以来、新自由主義が幅を利かし、小さい政府、規制緩和、自由競争が常識になり、多少の格差は発生しても、この方向は望ましいという考え方が国民の多くに刷り込まれたのではないか、という。このあたりは氏の竹中氏への対抗意識もおありのようだから多少割り引いて聞くにしても、官僚出身の榊原氏としては、日本の官僚制は決して「大きな政府」ではない、とするご意見はかなり本音の部分もおありのように聞こえたことだった。で、福祉は結構だが、一体財源はどうするんだ、という疑問に対しては、この5年から10年くらいは国債大増発による景気刺激策を採れば良い、とあっさり切って棄てる。国に1千4百兆の借金残高があるというが、バランスシートで見れば1千百兆円の家計貯蓄があり、ちとやそっとではびくともしない、という例の議論だ。まあ、5年か10年後には消費税の議論をしなくてはなるまいが、その時までに、高負担高福祉を採るのか、低負担低福祉でゆくのか、政策論争をしっかりすべきだ、と。
円高を嘆き悲しむのはおかしい。自国通貨が強いのは良いことで、この時を利して海外自然資源取得に走るとか、打つべき手はいくらもあるだろう、という。全世界的不況は脱却する術はなく、中で相対的に調子の良い中国経済の恩恵を被っている分通貨は強くなる。だからアジア通貨高はしばらく続くだろうし、円ドルが80円を割り込むのは時間の問題だろうとする。
歯切れが良いことは例によって例のごとし。この講演会は小沢鋭仁環境相の後援会でのものだったが、民主党経済政策が榊原路線の影響を受けることになるかどうか。経済人・学者と政治家との対話の重要性を説く同氏の影響力がどこまで大きなものか、興味深いことだった。
2010年 09月 09日