共立荻野病院コラム詳細
TOP > 共立荻野病院コラム一覧 > 党農民部長(5) 小林 克
  • 診療科目一覧
  • 内科
  • 胃腸科
  • リウマチ・膠原病科
  • アレルギー科
  • リハビリテーション科
  • 診療時間
  • 月〜金 午前9:00〜午後12:00
    午後3:00〜午後6:00
    土・日・祝日・年末年始・夏季
    (3日間)
  • 月〜土 午前9:00〜午後4:00
    日曜・年末年始
  • 月〜金 午前9:00〜午後5:00
    土・日・祝日・年末年始・夏季
    (3日間)
  • 院内のご案内
  • 医師紹介
  • 共立荻野病院デイケアセンターフラミンゴ
  • 住宅型有料老人ホーム プメハナ

2016年3月14日

党農民部長(5) 小林 克

 農民部長は起訴されていて、刑務所に送られる運命にあった上に、差し入れもないので冬を恐れていた。彼の慾しいのは防寒の衣類であった。わたしの新しい腹巻をねらっていたのはわたしも気づいていた。ところが、あの不艮少年も同じ境遇で、親は麹町で、かなりにやっている洋服商であった。勘当になっていて面会もなかった。傷害事件なので、彼にも冬はきついのである。
 順番で便所を待っている時にみた、彼の脱糞の姿は実に印象的であった。若い犬が、朝眼を覚まして、力強く、脚をふんばった強健清冽なのである。この男をいつかわたしは愛していた。
 腹巻をどちらにやらうかと思いまどった。そして考えた末に、わたしは、農民部長へ腹巻に浴衣や下着を添えてゆずることにした。彼にこの話をすると、それから暫くは、わたしに対して言葉使いまで改まった。しかし、わたしは、あの不良少年に対して、恥辱で顔もまともに向けられぬ数日を過して、秋風の吹くころ家に帰って来た。身体は恢復しなかったが、農民部長からの連絡のために島木健作を訪ねたわけだ。
 話が終わると、島木は気がついたらしく、この大学ではなかったのですね、遠いところをすみませんでしたね、といって、わたしの疲れ切った顔色から、幾つかの話を引き出してくれた。それは、わたしの心に泌み入るようなものをもっていた。
彼が島木健作だということを、わたしが知ったのは、それから、ずっとたってからである。
(一九五七・七・三) (国立武蔵野療養所勤務 脳病専門医)



共立荻野病院コラム一覧へ戻る