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2016年3月24日

akira's view 入山映ブログ ネトレプコ

 旧ソ連が鉄のカーテンに包まれていた時代と違って、ロシアの演奏家も自由に西側で公演。時としてはそのまま住みついてしまう例も決して珍しくはなくなった。ロシアなる大地を離れては創作活動が出来なかった往年の文豪たちとは全く様変わりである。とはいいながら、極東の辺境の地に住んでいると、なかなか巡り会えない演奏家たちがいる。そのうちのひとりが、ソプラノのアンナ・ネトレプコだった。容姿と美声、そして演技力がほぼ伝説のように聞こえてくるにつけ、何十年か前のカバイバンスカの時のように、憧れの思いだけが強くなる、というまるで青年の様な気持ちになったものだ。

 マスネーの「マノン」で日本に来るという。何はともあれ、と駆けつけた劇場ではあった。五幕ぶっ通しでただただ息を飲む結果になる。美声、声量の豊かさもさることながら、その演技力の素晴らしさには圧倒される。修道院に入るので田舎から出てきたおぼこ娘が、三幕ではパリ社交界を圧倒する妖艶な美女に花開く。修道院で神父になっているかつての恋人を誘惑。最後は囚人になって恋人の腕の中で息絶える、その変わり身と、手の先指一本までが計算し尽くされた演技には全く目が離せない。それが終幕の後のカーテンコールに出てきた時の素朴さはどうだ。まるでロシアの愛くるしい田舎娘そのものだ。

 マスネーのオペラそのものは駄作と言ってもよいだろう。およそ面白くない。プッチーニのそれに比べたら雲泥の差がある。どうしてこれを取り上げたのか。あるいはこんなどうしようもないオペラでも、ネトレプコが歌うとこうなりますよ、ということが示したかったのではないか。ローラン・ペリの演出も、一幕の宿の中庭を囲んでミニチュアめいた家が並んでいるのはどうもいただけなかったが、シルクハットにテールコートの男性群が、マノンの一挙手一投足に揃って前進・後退をするあたりの演出は見事だった。そもそもアリア相互間に連続性がなく、起承転結の流れに乏しいオペラだから、演出の出番もそれなりに多いということだろうか。マノンを取り巻く三人の女優たちの扱いもなかなかだった。

 アメリカ人テノールのマシュー・ポレンザーニは透明感ある声で、特にソット・ヴォーチェはなかなか聴かせた。この脚本は奇妙にトラビアタと似ているところが多く、おせっかいな父親が出てきたり、恋敵のギヨーと大ばくちを打ったり。ただ、これはネトレプコの独り舞台だ。彼女がいなかったら、どれほど凡庸な公演になっていたことだろう、と思う。彼女はまた来年の来日METでミミを歌うらしい。そんなのに全部つきあっていたら破産だね、困ったな、

2010年 09月 22日



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