2016年4月1日
若乃花・慶應・升田名人(4) 津村秀夫
将棋の升田名人となると事情はやや違う。升田の天才的な頭に惚れているのはむろんだが、わたくし自身が曾て二十年も前には将棋気狂いになったことがあるだからだ。大学を出てから凝り出した将棋だからむしろ下手の横好きに過ぎないが、昭和十二、三年頃には熱中した。これではいかんと、ある時塩原へ行った時、同じ将棋好きの友人と合計三十番ほどむやみやたらに指し、わざと嫌になる工夫をした。その計画は図にあたって、十日間ばかりは駒をみるのも嫌になった。そのうちに熱病も去った。その頃、麹町番町の里見弴氏別宅を訪れてよく深更まで将棋を指したが、失礼ながら里見先生の腕前はわたくしとよい勝負だったから決してうまくはない。