2016年4月4日
若乃花・慶應・升田名人(5) 津村秀夫
志賀直哉さんははるかに強いので、わたくしは常に先生を忌避していた。ただ一度、熱海にいられた頃、お宅で手合わせをやり、三番のうち一番だけ勝った。
先生はその一番を「あれはケガ負けであった」と笑われた。
戦後は全くやらないが、ただ毎日の新聞将棋だけは読んで楽しんでいる。ことに升田の登場する棋譜は愛読している。名人戦、王将戦、九段戦とあるので読むのもほとんど一年中になって忙しい。ただし升田名人が負けたとわかっている棋譜は絶対に読まない。
これはほんとうに将棋が好きなのでなくて、升田の天分に惚れているだけのことである。升田名人が名手、鬼手を出して勝つところが見たいのである。
大山も天分豊かだがあの受身の棋風は好きでない。やはり升田の構成力の芸術的な素晴しさに酔うのである。