2016年4月5日
若乃花・慶應・升田名人(6) 津村秀夫
今期名人戦の第一局などは中でも素晴しい構想の作戦で、全局を運んでゆくその構成力の非凡なことは、正に天才の名に値するであろう。大山は三七桂成を見落したと語っていたが、三七桂成もさることながら五五桂打が素晴しく、わざと打って銀で取らせておいてから、また三七角打の王手である。あれで大山に止どめを刺したあたり、感嘆これ久しくした。若乃花も天才かも知れない。が、前に双葉山という大天才がいるのでさほど驚かない。が、升田名人に至っては曾ての木村の全盛時代をも凌ぐ天分の独創力があると思われる。
名人戦第二局も升田が勝ったが、これは第一局ほど画白いものではない。升田の天才を真に発揮するような華やかなものではなかった。いつのまにか勝って終った。
升田名人は朝日新聞の嘱託だから、社に出入するので時どき会って語ることはある。わたくしは彼の健康を心配して、肝臓のために指圧療法を切にすすめている。健康さえよくなったら彼は真に無敵の名人位を保持しつづけるであろう。
これを要するに、以上の三つのものに対するわたくしの御ひいき心理というものを考える、これはわたくしの性格に根ざす弱点で、つまり感情的なのである。しかしそのウィーグ・ポイントのお蔭でわが人生には楽しみがあるのである。アホウになることがなければ人生なんてつまらないのである。(三三・五・一五)