2016年4月13日
akira's view 入山映ブログ 農業
しばらく北海道にいた。「農こそ国の基」という信念から、定年後、全財産をはたいて10ヘクタールほどの農地を手に入れ、洞爺湖畔で有機農業に取り組んでいる旧友の許を訪れた。全く観念的にしか農業問題を理解していなかった筆者にとっては、まさに目から鱗の話も多く聞くことが出来た。以下の話は多くがその友人の十年の農業経験談の受け売りで、従って大いに彼のバイアスがかかっていることも予想される。ただ、お話としてはそれなりに筋の通ったものだから、そんな見方もある、と思っていただければ幸いだ。
近隣農家のうち、経営採算のとれているのはひいき目に見て三分の一だろうという。赤字経営の原因は、永年にわたる國の無責任な農業政策を初め、数えればきりがないが、その結果直接的に何が起こっているかというと農協からの借金漬けだという。機械化、農地整備、作付け品種変更などなど、度重なる借金はこの辺りの平均で一戸あたり一億円近いものがある。借金で首が回らなくなり現金収入がなくなると、農協からツケで品物を買う。農協は無利子で貸してくれるわけではないから、サラ金地獄状態の農家も少なくない。清算するためには死人が出る。あちらで自殺者が出た、こちらで用水池に落ちた、という話は珍しくない。生命保険も農協で入っている。
わが国の農業が価格の国際競争力を中心に脆弱な体質だとは承知していた。しかし、その競争力欠如や脆弱な体質が、これほどまで深刻な状態を意味しているとは知らなかった。280万農家の2/3が1億円の借金を抱えて返済不能なら、不良債権額は百兆円を超える。専業農家42万としても20兆円を超える。仮に話半分としても見過ごしうる数字ではないように思われる。おりしもTPP参加が俎上に上って、いまさら農業政策の基本方向についての議論を始めるのだという。唖然とする他はないが、議論は競争力を完全に喪失した農産品をいかにして保護し続けることが可能か、という点に限定されているように見受けられる。一体どれほどの農産品をどれほどの期間補助金漬けにするつもりかは知らないが、それより先に不良債権の表面化をどのようにして防ぐつもりなのだろう。
農協の与信業務は、JAバンクの名称にもかかわらず厳格な査定評価を受けていないと聞く。見て見ぬ振りの臭いものに蓋、というのにも限度というものがある。仕分けを愚弄して焼け太ったりするのが得意技の農水省かもしれないが、事の重大さをはっきりさせるべきだ。そんな事態は起きていない、というのならなお結構ではないか。
2010年 11月 10日