2016年4月25日
緑色の大砲(4)―船の話 Ⅳ― 丸山 薫
その後、僕は京城の小学校に通っていたが、ひところ教室で軍艦の絵を描くことが流行った。舷側を描き、スカッツル(窓)を描き、艦橋やマストやフワネルを描き、旗やボートを描き足して、さていちばん大切な部分――それが軍艦であるシンボルとなるところの大砲を描くたびに、必ず僕は恒春丸のあのオモチャ、のように愛らしい大砲を想い起すのだった。そしてその大砲が軍艦のように砲塔から突き出ていないで、船首にムき出しに据え付けられていたという相違点については、あれは商船だったからナと、みずからを納得させようとした。けれども、すぐその後からそれならば何故に商船が大砲をもっていたのかという疑問が頭を抬げて、それはそのままに誰にも打ち明けぬ謎となって秘かに生長していったのである。