2016年5月11日
サルトルのボードレール論(1) 松井好夫
サルトルのボードレール論は、ボードレールをサルトル流の実存主義的精神分析の方法で描出したものであり、ボードレールの生活を敗北の一生と断定したものである。それはルネ・ラフォルグの精神分析学的研究(ボードレールの失敗)と同種のものである。唯異なるところは、後者が純粋に精神分析学の立場から論じているのに対して、サルトルの論旨は、実存主義的色彩が濃厚であると云う点である。
ところで、この書物に対しては、フランスでもその余りにもむごたらしくボードレールの人間像をえぐり出しているので、種々異論が出たようである。その反対論者の非難は、この著者が覚書や手紙などを参考として、ボードレールを論じており、彼の最も重要な作品であるところの詩には殆ど触れていないと云うことである。それ故、ジョルジュ・バタイユの如きも、サルトルはもともと詩がきらいなので、詩人をみとめていないのだ。だからこのボードレール論も、ポエジーに対する攻撃にすぎないと云っている。