2016年5月16日
サルトルのボードレール論(4) 松井好夫
そして、サルトルの論じているボードレールの不毛性、反自然、人工趣味、拝物愛、冷感性、屍姦等の問題は、ボードレールの性格の本質に触れるものであり、ミンコウスキーの<生ける現実との接触の喪失>を意味するところの、まことに深く鋭い観察と云わねばならない。かくて、ここからボードレールの孤独、自閉性、非社交性、冷淡、アムビヴァレンツ、離人症的感覚、性的異常等の精神分裂病質的症状が発生するのである。
私はさきに拙著<ボードレール>において、ボードレールを精神病理学的に考察し、彼の異常性格を分裂病質として解釈したのであるが、ここにサルトルのボードレール論を読んで、彼もまたボードレールを分裂病質者として理解していることを知り、非常に興味深く感じた。この書物はプルーストのボードレール論と同じように今後多くのボードレール研究者にとって、貴重な文献として役立つだろう。