2016年5月30日
こわい新聞(1) 城山三郎
新聞を開くのが、いやでいやでたまらない時期があった。腹が立つことが多過ぎる。事件そのものにも腹が立つし、その報道なり解説の仕方にも腹が立つ。そして、それに一々腹を立てていては、仕事もできないし、体も保たない。眼だけで読み流しておけばよいようなものの、記事の方から襲いかかり、挑戦してくるような感じで、どうしてものみこまれ、きおい立ってしまう。
わが身が可愛いいのなら、新聞を読まないに限ると、思い切って、全然新聞をとらぬことにした。名古屋の城山というところへ転居し、小説書きに本腰を入れようと、ペンネームにもその地名をとり入れたころである。ぼくなりに小説にうちこむ覚悟でいた。
入れ代り、立ち代り勧誘員がやって来た。ぼくの女房は「主人はロンドン・タイムス以外は読まないのです」という口実で断わりつづけた。もちろん、ロンドン・タイムスなど読んでもいなかったが。