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2016年6月3日

偶感(1) 三好達治

 「紀の路にもおりず夜を行雁ひとつ」といふのは蕪村の句、句集には雁だから「秋」の部に収められているが、それを歸る雁の「春」と考へて考へられないこともなささうに、迂濶者の私はいつも疑問に思つてゐた。それなら、紀伊半島の南端を横断して、北上するものと考へてみるのである。一度誰かにただしてみたいものと考へてゐたのは、まつたく無用のことであつた。蕪村自ら、「まさな」―この人に就ては私は知るところがない―宛書翰の一節にこの句をさし挾んで述べてゐる。「紀は日の本の南方の限り、なおそれにもおりず、只一羽友を尋ねて、いづこをさして啼きわたることにや、千万里の波濤孤雁のあはれをおもひつづけ候。」紀は日本の南端、なほそれにも下りず、といふのだから、むろん南下の意味にしかならない。「紀の路」は京阪あたりの立場から指しての「南限」を、ここでは含蓄してゐる。そのことを最初に承認しなければならなかつたのを、私はつい迂濶に思ひ落してゐたのであつた。それを思ひ落しては、「紀の路」はここではぴりつとしないであらう、とただ今は承認する。



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