2016年6月6日
偶感(2) 三好達治
それはともあれ、この句想像の作、いはば当て推量をすつきりと活かしきつた趣である。書簡の前後から推しても、旅中の収穫などではないのが知られる。
書簡は先の引用にすぐ引続いて、「起(おき)て居てもう寝たといふ夜寒哉」という詼諧の自作をしるして、それにも同じく補説を加へてゐる。「近来の流行、めつたにしさいらしく句作り候事無止の事にて、それ故折にはかくもいたし見せ申候。」即ち、この句には折から諷意を寓したのをいふのである。(めつたには、みだりに、無止は、むやみと読むのであらう、さうして「とかく句は磊落なるを宜(よ)しとすべし」と「新花摘」にいひ放つたところを門生の前に実踐して見せたやうな趣でもある。この句想像の作といふのでないが、臨機方便の手腕が冴ゑて面白い。同時に蕪村が門生に嚙んでふくめるやうな薫陶ぶりの文面歴々たるのがまた面白い。