2016年6月27日
ガタの治療法(1) 島崎敏樹
まえの年の暮、だれでも暮はせわしくうごきまわるものだが、私もひどく用事がつまって辛かった。いくつかは越年ときめて、点検する全書用の論文千枚、懸賞ものの審査論文何篇か、それに自分のノルマの原稿などはもう暮には手をつけまいと覚悟した。
そして年の最後の二日ほど、なにもしないでうちのなかをうろうろしたり、ためいきをついたり、書棚のひき戸をあけて中をのぞいてみてすぐまたしめたり――そんな風に時をつぶしていたら、にわかにからだ中にガタがきてしまった。
文字どおりガタである。関節という関節が、油がきれたようにぎすぎすし、うごくとにぶくいたんだ。あたまはぽかんとしてものに感応しなく、それでいてじりじりした不快さがあった。
ああいやだ――それで私はうちのなかをうろうろあるきまわり、書棚をのぞいてはひき戸をぴしゃりとしめ、ためいきつき、うなり声をあげた。