2016年6月29日
ガタの治療法(3) 島崎敏樹
あこがれはかなった。そしてからだ中ミシミシいって、たてつけが狂ってしまった。あこがれは、実現しないからこそ美しいものなのだ。まえまえからあたまのなかでは承知していたこの原理どおりのことが起ったわけである。うなり声をあげ、私はなおさら不快になった。
おおみそかの晩、私どもは家族みんなで友だちの芸大のバイオリンの先生のうちへ年とりに――別に年とりの晩をしにというのでもなく、のんでたべてだべりにいった。
堀ごたつをかこんでわいわいさわいでいるうち、ひとつ合そうじゃないかということになった。ヒンデミットだとか、コープランドじゃなしに、どうだ島崎さん、あんたのムードでバロックといこう――芸大教授の命令である。プロの連中はバロック辺のシンプルな楽譜なら初見でそれこそムードをだしてひける。