2016年7月1日
ガタの治療法(5) 島崎敏樹
すごいすごい、立派なフルート奏者だ――先生がひやかす。まだ音をだしてないからである。こちらも大きな顔をして、ピアニストへむかってちょっとCをたたいて下さい、ピッチあわせましょうなど知ったかぶりする。
ひとにきかせてやろうなどおもうのは音楽の本性をわきまえぬ連中だと私はよく感じる。めいめいがあわせて、それこそ声を一つにすれば心が一つになるというとおり、みんなでうたい、かなで、途中はところどころはずしても、おわりではみごとな調和で消えて、ああよかったとためいきをつく――しあわせなためいきをつく、それがほんとうの音楽だと私はおもう。