2016年7月15日
光秀城記(4) 棟方志功
「老坂は、このあたりです。いつれ後で、そこを通つて京都へお供いたしますが、この景色の伸びたところを、姉もとても好んでゐます。」裏道つたひに、この城の全躰を、わたくし達は、トボリ、トボリと歩きました。何とも言へない夕宵の空気が、躰を包んで、この城趾、城内外の静かな気配の裡にわたくし達が、ひそんで仕舞ふ様にさへ思はれました。モノモノ(・・・・)しい石垣ではなく、手頃なと言へる石の大きさばかり、組み積まれた丁度の格好の垣構への、ナントナクの込み上つて来る風清に、それとはなしに、わたくしはこ
ころも身も包まれて行く様な思ひにハットしてゐました。
「おそくなりましたが、御茶を点てませう」
並の部屋でしたが、よく掃かれて塵なく、釜の湯は頃の音をしてゐました。出口王仁三郎氏手造りの耀怨は主怨でした。瑠璃の打薬の丸い型の茶盤でした。替へに三代様の備前で焼かれたといふこれも鉢型の盌でした。
「姉は、この三つの内、どれでも、あなたの好みにあつたモノ(・・)がありましたら御持かへりくださる様との事でした」茶が仕舞ひになつてから、そう言はれました。出口王仁三郎氏の盤一つと、共にその茶盤を頂戴しました。