2016年7月27日
現代文明と精神座談会(5) 出席者:尾崎一雄/荻野彰久/斎藤玉男/島崎敏樹/丸山薫
尾崎 辻村さんは学校の先生やってられましたけれども、アルプスに行って落っこちてイタリー人に助けてもらった。娘さんに、非常によく親切に看護してもらって、感激して、結婚して日本につれてきたんです。そしたら大正十二年の大震災に……箱根の湯本に別荘がありましてそこへ行ってたんです。山崩れで家族ぐるみ全部だめになっちゃった。
荻野 ほう、そういう山では死に甲斐がありませんね。
尾崎 あれがそうですね、猪谷六合雄って人が。これは山かスキーかですね。宿屋の主人かなんかですけれども、宿屋なんかおっぽり出していまでもしょっちゅう滑ってますね。
島崎 千春のおやじさんね。私、息子がこの春早稲田をうかったら大よろこびで、合格の翌日キスリングしょって、二週間も帰ってこなかった。どろどろになって帰ってきましたら、そんな話をしてましたっけ。「宿のおやじがえらくうまいのがいた、あれが千春のおやじだって」ああいう人は下界では暮せない、ほんとうの山男ですね。
尾崎 志賀先生の「焚火」という小説に猪谷さんの話が出て来ますね。Kと書いてある……。